英会話 リスニングの興味深さ

舞台となったシカゴの民主党全国大会の外では、反戦派のデモに対しシカゴ警察が血の弾圧を行った。 そして各地で人種暴動が続発する、という年だった。
マスメディアは既成社会のほうよりは、どうしても新しい動きを追求してしまいたくなる。 この年、そしてその後も、アメリカのメディアは反ベトナム戦争の立場に立つ政治家の動きを克明に追った。
1968年の大統領選挙で共和党の大統領候補になったN元副大統領が、普通のアメリカ人の考えを説いても、それは無視されたに等しい扱いをうけた。 これでいいのだろうか?もう亡くなって久しくなるがJといえば、K大統領のスピーチライターをしたこともある有力コラムニストで、ワシントン政界に大きな力を持つジャーナリストであった。
彼は自分が持つW紙の定期のコラムのなかでこう問いかけた。 コミュニケーション分野と称される仕事に携わる私たちのほとんどは、一般のアメリカ人という大衆の中に、つまりミドル・アメリカにルーツを持っていないのだ。
実際、このMiddleArnericaの心と票をつかまえて、この年N候補が大統領に選ばれたのだし、1972年と1976年の大統領選挙でウォレス・アラパマ州知事が台風の目のような動きをしたのも、MiddleAmericaに訴えるものがあったからだった。 CがっくりだしたMiddleAmericaという言葉は、その後も米国政治の重要なキーワードとなり、1968年にはタイム誌もN誌も、これをカバーストーリーに取りあげている。
だが、このMiddleAmericaの考えを具体的な形でっかみだすのは、それほどたやすいことではない。 ワシントン・P紙のH記者は、古くから米国各地をまわり、多くの一般市民から話を詳しく聞いて、アメリカのムードを報じる手法を確立していた。
takingthepulseofthecountry(この国の脈をとる)といわれる報道の手法である。 これがその後の選挙報道、政治報道で広く使われだし、MiddleAmericaが実際に何を求めているかがつかまれるようになった。
N大統領はMiddleAmericaがrealmajority(真の多数派)だとみていた。 N大統領の自伝であるTheMemoirsofRichardNを読むと、民主党の統計学者のRとジャーナリストのBが1970年に書いた著作TheRealMajorityに彼らが想定した選挙での平均的有権者像とは、オハイオ州デイトン郊外に住む47歳の主婦で、その夫は機械工というものだった)とあり、「このデイトンの女性が、夜中に独りで町を歩くのは怖いと思い、息子が通う地元の高校ではLSD(当時流行した幻覚剤)が生徒たちによって使われていることに深く心を痛めていることなどを知ることが、現代政治の知恵に通じる始まりだ」と書かれているのに、Nがなるほどと感じ入ったことがわかる。
この自伝によると、N大統領のスピーチライターだったP(1992年以来、大統領選挙ごとに共和党候補の指名を求めて戦っている保守派の代表的論客)が、ボスの大統領にこの本の内容を紹介し、この考えに従うべきだと勧めたという。 その結果、N大統領はこの本を読み、デイトンに住むこの47歳の主婦の票をつかむようにしなければならないと結論づけたのだった。

その後の動きをみると、N大統領は確かに「真の多数派」をつかんで、選挙には勝ったが、ウォーターゲート事件ではこの人たちの声を聞き誤ったようである。 そのN大統領が1994年4月22日、81歳で亡くなった時、米国の報道機関は評価が大変難しいNについて、いろいろな見方を報じていた。
外交面での高い評価を与えつつ、歴史はN大統領をウォーターゲート事件で大統領職から去らざるをえなかった最初の大統領と位置づけるだろう、というのが大方の見方だったようだ。 しかし、NはMiddleAmericaをつかんだ大統領であったし、その政治の手法はその後の大統領にも引き継がれているし、これからも確実に残っていくことだろう。
2000年の大統領選挙でB・テキサス州知事を追撃しているM上院議員は3月には脱落してしまったが、勝利が難しいとみられていたミシガン州での予備選挙に勝ちNewMajority(新しい多数派)が自分を支えてくれた、これはMcCainMajority(M多数派)だと誇っていた。 MiddleAmericaが政治にとって大事だ、というのはやさしいが、ではそれがいったいだれなのかを具体的にわかるようにいうのは難しい。
国の広さと民族的多様性のなかにMiddleAmericaという言葉は埋没し、わらの束のなかで針をみつけようとするのと同じになるだろう。 そこで、どのような人、どこの町を頭に浮かべればMiddlAmericaがわかるか、アメリカ人は懸命に探しだそうとする。
古くからアメリカ人は、多様性のなかで軸になるもの、全体をつかめるものを探し求めてきた。 それが統計であり、世論調査であった。
アメリカで買い物をしてお釣りをもらう時にわかるように、一般のアメリカ人は計算には決して強くはないのだが、数字は万人に理解できる指標として、アメリカ人には神聖なにおいさえするものとなっている。 日米経済摩擦で米国が数値基準にこだわるのも、その表れだと思う。
しかし数字だけをあげても、MiddleAmericaは具体的な形でみえてこない。 K政権時代の国勢調査局長だったRとJ大統領のスピーチライターだったBは、1970年初めにだした1970年と1972年の選挙での平均的な有権者として、「オハイオ州デイトン郊外に住む47歳の主婦で、その夫は機械工」という人物に代表させたことは前項で述べた通りである。
経歴からもわかるように、ふたりの著者は民主党系の人物だ。 民主党の候補者たちが、当時のベトナム反戦運動、公民権運動の中心だった若い層、リベラル派、黒人の票に的を絞っていたのをこのふたりは批判し、「デイトンの主婦」のような一般市民の価値観を重視すべきだ、と警鐘を鳴らしたのだった。
これを共和党のN大統領が受けとめたことも既に説明した。 1970年の中間選挙では、N大統領は大統領らしくみせるため、自らはあまり選挙運動はしなかったが、A副大統領に日々の選挙活動を任せて、汚い言葉でリベラル攻撃をさせてMiddleAmericaの心をとらえようとした。

同じような形で「一般市民」のシンボルとなるものに、イリノイ州ピオーリアという町がある。 1990年の国勢調査では人口11万3504人、白人が8万6852人、黒人が2万3692人で、黒人の割合が市の人口の209%となり、国全体の割合である14%を大きく上回ってしまったが、1970年の国勢調査では、年齢分布、人種構成、住宅価格など、いくつかの指標から、国の平均に最も近い都市とされていた。
だからピオーリアで物が売れれば、全国でも売れることになる。 アメリカの典型とされるこうした町で、市民の支持が集まるかどうかは、アメリカ全土を占うものとなる。
やはりN大統領が政権に就いていたころ、政策の決断を迫られた時、WillitplayinPeoria?(ピオーリアでうまくいくのか)とよく聞いたものだ。

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